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田村よしてる歌集
『いとしきもの』


 わたしは一九七五年、仙台から埼玉に出てきて浦和にある私立高校の教師になった。田村よしてる(善昭)さんは、その学校の同僚である。年齢は彼の方が二歳下だが、奉職したのは一年早い。同じ理科の教員で同じ物理を担当し、学校の仕事も、遊ぶことも一緒にし、同僚というより友人となった。
(小池光・序より)

・きはまりて針箱投げし母の子の、
 投げつけられし父の子のわれ
・教師歴三十余年、
 何ひとつ馴染むことなく定年に向かふ
・「あ、香水が変はつた」と生徒言ひにけり
 若き教師とすれちがひざま


松丸武史「田村善昭先生追悼記」
佐々木通代「夢みるライオン 上尾市短歌会のこと」
野村裕心「たのしき道をともに」

遺歌集
「短歌人」同人
2016年12月28日発行
四六判上製カバー装160頁
非売品
装幀/真田幸治
 

 
野澤民子歌集
『祭囃子の音』


「浅草」は人情味があふれ、江戸情緒を残す、人と文化の織りなす世界として浮かびあがってくる。祭囃子の音は、いわば通奏低音として、この歌集の基底を流れている。
(内藤 明・跋より)

・汚れたる父の眼鏡を掛け見れば
 溶接の火花眼裏に満つ
・祭り好きの父の三七日
 響きいし祭囃子に背を押されたり
・三十年住みいる町の盆踊り
 所沢音頭耳に親しき 

第1歌集
音叢書
2016年10月21日発行
四六判上製カバー装168頁
定価:本体2200円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
細溝洋子歌集
『花片』


第8回中日短歌大賞受賞

日々の思いを結ぶ言葉。
やわらかな視線と
細やかな描写、
五感の豊かさが、
言葉にもたらす
世界の確かさ。

・もう思い出されることもない人の
 良き消息を耳は拾えり
・FAXにファックスで返す春の朝
  帆船ひとつ対岸に着く
・秋の日を水のオブジェとなりながら
 噴水の白けぶりていたり
・人はなぜ舟を思うか
 溜め息に重ねるように舟を思うか
・風花は散るのみの花
 ゆっくりと落ちくるふゆのひかりのなかを

第2歌集
「心の花」会員
2016年10月12日発行
四六判上製カバー装164頁
定価:本体2400円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
『筒井富栄全歌集』

加藤克巳門下として
モダニズムの系譜に連なり、
重き時代の抵抗としての
〈軽短歌〉を提唱。
あざやかな口語、
軽やかな詩想を追求する。

45年の歌業の集大成

『未明の街』『森ざわめくは』『冬のダ・ヴィンチ』『風の構図』、4歌集収録。ほか未刊歌篇、初期歌篇、歌人論、解題、年譜、初句索引。

・誰か詩を。言葉もたないシャンソニエ
 扉のそとで一人ねてます
・ひょうひょうと垂れ幕だけがうたいつぐ
 晴 この日より冬
・ねえ ママン 鳥はとびたつ
 なぜ鳥はうたれるためにとびたってゆく
・出帆とはあまりに暗い枯葉月
 地下水面にどこからか風
・夏の午後ひとりの丘と思いしに
 風をともなう青年とあう

1930年、東京都生まれ。
歌誌「個性」所属、加藤克巳に師事。
2000年逝去、享年70。

2016年10月27日発行
四六判並製カバー装468頁
定価:本体3000円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
藤村学歌集
『ぐい飲みの罅』


三十年使い馴れたるぐい飲みの
罅にかぐろき酒焼けの渋

無頼派歌人の、面目発揮の、家族思いの集。
コトバに拘る美の歌多く、母への挽歌の集でもある。
(奥村晃作)

・擂鉢の底のようなる谷あいに
 米寿の母の棲みて離れず
・一枚の子の絵売れたるギャラリーを
 まばゆき黄金の日輪照らす
・白焼きのうなぎ青磁の皿にあり
 玻璃盃中に冷酒をみたす

第1歌集
コスモス叢書第1112篇
2016年9月28日発行
四六判上製カバー装208頁
定価:本体2500円[税別]
装画/藤村信子、藤村英明
装幀/真田幸治
 

 
奥村晃作歌集
『ビビッと動く』


益々自在かつ軽妙、
定型を束縛とはしない
独自の歌境。
観察と描写、
どこまでも
真面目に邁進する
オクムラ短歌の到達点。

・茶屋の席七人で占め枡を充たす
 地酒「井の頭」の二杯目すする
・必敗の囲碁であったが
 相方がゆるい手打って勝ちが転がる
・鳥達に赤き実すべて食べられて
 イイギリは今まったき裸木
・宮柊二先生に逢い
 学生の佐藤慶子と間なくして逢う
・俊敏の佐藤慶子の鳥のごと
 ビビッと動く脳を思えり
・レオナルド・ダ・ヴィンチの場合
 一点の絵画があれば動員できる

第15歌集
コスモス叢書第1108篇
2016年9月22日発行
四六判上製カバー装236頁
定価:本体2500円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
福井有紀歌集
『同時代』


夫の闘病、そして死。
かけがえない記憶を短歌として刻印する。
2007年夏より2016年春の作品を収録。

・ストレスをあながち否定するでなく
 日射しのなかに珈琲を飲む
・わが夫は薔薇の花束持ち帰り
 四十一年勤めあげたり
・君のなき朝日ながめてゐたりけり
 何から始めるか考へるなり

第4歌集
「短歌人」同人
2016年9月10日発行
四六判並製カバー装154頁
定価:本体2000円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
阿部久美歌集
『ゆき、泥の舟にふる』


第31回北海道新聞短歌賞受賞

わがうなじそびらいさらいひかがみに
向き合えぬただ一生なり

「ひとはかなしいから詩を書くのだ。」――この詩歌の永遠の真理にきわめて忠実に、底ふかいかなしみの歌として、阿部久美の短歌は存在する。
(藤原龍一郎・解説より)  

・歌のなか冬の荒ぶるおんないて
 わたしのようでわたしですらない
・人を待ち季節を待ちてわが住むは
 昼なお寂し駅舎ある町
・行先に背を向けて漕ぐ小舟なり
 きしむ声とは悲鳴/歌/息

第2歌集
「短歌人」同人
2016年8月19日発行
四六判並製カバー装176頁
定価:本体2000円[税別]
カバー・口絵写真/矢吹尚也
装幀/真田幸治
 

 
西橋美保歌集
『うはの空』


文学少女が成長して、おとなの世界に棲み始める。実はそこは地縁や血縁のしがらみが絡まりあうカオスだった。その混沌の真ん中から西橋美保は歌を紡ぎだす。白銀のピアノ線のように冷たく冴えきった歌人の感受性は、閉塞した因襲を振り払い、万華鏡さながらの韻文世界を構築して見せてくれる。
(藤原龍一郎)

・ビー玉の奥に泛びし泡はるか
 星のかなたに故郷はすてつ
・暗室を出るたびものみな過去になる
 あをぞら夏雲やがて夕闇
・ぬばたまの夜聞くこゑやほととぎす
 あぢさゐの青したたるまでに

第2歌集
「短歌人」同人
2016年8月26日発行
四六判上製カバー装198頁
定価:本体2300円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
田上起一郎歌集
『九年坂』


日常生活を淡々と歌にしながら、人間世界の亀裂みたいなものをごくわかりやすい、平明な文体で切り取って、逡巡せず、歌にしてゆく。老いの嘆きのような要素は皆無である。めずらしい。
(小池光・跋より)

・にはか雨ビル濡れ木濡れ人の濡れ
 一円玉も濡れてゐる 踏む
・嬉しきことのふたつもありし夕暮れに
 のぞきたりけり土管の穴を
・金色にまことかがやく海に来つ
  俺のへそくりだれにもやらぬ

第1歌集
「短歌人」同人
2016年7月27日発行
四六判上製カバー装208頁
定価:本体2400円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
水島和夫歌集
『田端日記抄』


日本歌人クラブ東京ブロック優良歌集賞

二十年間の作品を収めた第三歌集。
慟哭あり、悲憤あり、祈りありのまっこう勝負三八五首。荒海を漕ぎ渡る日々の具体。人としての基本を見すえるあまたの問いを含んだ作者自身の発見と認識。未だ航海中の必死でつつましい家族像が胸を打つ。
(三井ゆき)

・いまはの際「僕逝くから」と弟は言ひ
 「逝きなさい」と母は言ひにき
・田端操車場は列車の寝床
 深夜をあらゆる車種がねむりぬ
・怒るべきもの対して怒ること
 イエスからわが学びしひとつ

第3歌集
「短歌人」同人
2016年5月26日発行
四六判上製カバー装164頁
定価:本体2200円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
さとうひろこ歌集
『呑気な猫』


第14回熊本県歌人協会賞受賞

自分の心の奥にはびこるもの、言葉として拾い得ざるもの、さとうさんは短歌に出会った時から、それを確と捉えようとして、今まで短歌を続けてきたのではないだろうか。
(斎藤典子・跋より)

・白黒の子猫一匹棲みつきぬ
 幸の具体はこの猫にして
・草引けど延びる地下茎
 どこまでも断つとふことは簡単ならず
・確実に減りてゆくなり持ち時間
 息子ときどき話聞かせよ

第1歌集
「短歌人」会員
2016年5月20日発行
四六判並製カバー装176頁
定価:本体2000円[税別]
装画/著者
装幀/真田幸治
 

 
難波一義著
『ホレーシォの孤独
 小野茂樹論

『ハムレット』に登場する
誠実かつ冷静なホレーシォに、
33歳で輪禍に遭った
小野茂樹を重ね合わせて、
その孤独の源を探る。
6年の歳月を費やした歌人論。

T〈光〉と〈影〉 U「混沌について」 V『羊雲離散』
W『黄金記憶』 X〈窓〉の歌、〈夕べ〉の歌
? 迷える羊 ?〈通過儀礼〉としての「黄金記憶」
? 季節の歌

「笛」編集人
2016年5月7日発行
四六判上製カバー装182頁
定価:本体2300円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
牛尾誠三歌集
『バスを待つ』


牛尾さんの作品を読むとき、「もっと肩の力をぬいたらいいのにな」などと余計な心配をしつつ、ややもすれば軽佻浮薄に流れてゆく世の中に、このように愚直なまでに自分をみつめている人がいる、この誠実さを私は貴重なものとして読む。
(斎藤典子・跋より)

・バスを待つ見知らぬ人にも辞儀をする
 少年のゐて春のゆふぐれ
・腕時計をはづした後に残る汗は
 黒酢のやうな臭ひしてをり
・喫煙を止めし頃より人生を
 防御の姿勢で歩みはじめき

第1歌集
「短歌人」会員
2016年4月21日発行
四六判上製カバー装246頁
定価:本体2400円[税別]
装画/著者
装幀/真田幸治
 

 
天野慶歌集
『つぎの物語がはじまるまで』


慶さんの人生の膨らんでいく様が伝わってきて、豊かな幸せを感じます。歌を作るというのはどんな脳の中なんだろう……。短歌のリズムが染み込んでいるのでしょうか?
不思議です。
  末次由紀(漫画家 『ちはやふる』作者)

・馬だったころのあなたにあこがれて
 ヒトとしてまた逢えてうれしい
・パピルスに初めて書かれた恋文と
 変わらぬ想いを受信しました
・少年を強制終了するように
 ある日空き地にフェンスは立った
・「著者急逝のため最終回」小説は
 焼け落ちてゆく橋で終わった
・立ち止まりまた歩き出す子どもたち
 何かの種を埋めているのだ

『テノヒラタンカ』(共著 オフィスサンサーラ、2002)、『短歌のキブン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2003)の抄出作品、脚本(岩本憲嗣)・漫画(スズキロク)との共同制作を収録。

第2歌集
「短歌人」同人
2016年2月18日発行
四六判並製カバー装192頁
定価:本体2000円[税別]
装幀/真田幸治

 

 
『?瀬一誌全歌集 新装版

〈定型〉でもなく、〈自由律〉でもない。
型式と対峙して半世紀の集成。
唯一の文体がここにある。

『喝采』『レセプション』『スミレ幼稚園』『火ダルマ』、4冊の既刊歌集に加え、初期歌篇を収録。私家版で入手困難だった一冊を新装版として刊行。
(解説・栞文:横田専一、吉岡生夫、中地俊夫、島田修三、穂村 弘)

・うどん屋の饂飩の文字が
 混沌の文字になるまでを酔う
・眼鏡の奥で笑う眼と親しまれても
 どうにもならぬ
・吊るす前からさみしきかたちになるなよ
 おまえトレンチコート
・「やがてかなしき」と下につければ
 風景みんな歌になるではないか
・くたくたになったのではない
 棒のごときからだになったらしい
・「のぞみ」をさかさにふれば
 人の手と足ばらばらである
 
1929年、東京都生まれ。
1953年より「短歌人」編集委員。
2001年没、享年71。

2015年12月7日発行
四六判上製カバー装480頁
定価:本体3300円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
広坂早苗歌集
『未明の窓』


第17回現代短歌新人賞受賞

教師と母親、
ひとは幾つもの顔を持つ。
透徹した視線によって、
日々の感情の
ゆらめきを掬い取る。

・少年期はいつまでだろう
 ゆうやみに口笛をふく茎のような子
・睫濃く胸をひらいて街へゆく女生徒達よ
 Good Luckさらば
・よくしゃべる秋の娘と
 声たてぬ冬のむすめが住む夜の家

第2歌集
まひる野叢書第322篇
2015年10月27日発行
四六判上製カバー装202頁
定価:本体2400円[税別]
装画/須藤友丹
装幀/真田幸治
 

 
大辻隆弘著
『近代短歌の範型』


第3回佐藤佐太郎短歌賞受賞

近代短歌を読むときに感じる肉厚で彫りの深い重厚な作者像。それを齎すものは一体何なのか。私たちがそれを感じるとき、私たちはどのような「読み」のパラダイムの中で作品を読んでいるのか。そんな問題意識が論考を書いている背後に、常に働いていたように思う。
(「あとがき」より)

T
確定条件の力(斎藤茂吉)/茂吉の指示詞(斎藤茂吉)/省略と飛躍(斎藤茂吉)/凶兆と暁光(窪田空穂・斎藤茂吉)/昭和七年の斎藤茂吉(斎藤茂吉)
U
題詠のなかのリアル(税所敦子)/心を飛翔させる術(正岡子規)/長塚節、明治四十二年春(長塚節)/啄木、明治四十二年春(石川啄木)/実在の影(石川啄木)/彫りの深い作者像(島木赤彦)/歌人清白(伊良子清白)/ディレッタンティズムの放恣(中島敦)
V
佐太郎の助詞(佐藤佐太郎)/純粋短歌の完成態(佐藤佐太郎)/凝視と帰依(佐藤佐太郎・・前川佐美雄)/小変化の発見(佐藤佐太郎)/華麗なる転変(前川佐美雄)/愛郷と愛国(前川佐美雄)
W
子断ちの思想(山中智恵子)/意識流の記述(森岡貞香)/「今ここ」の不在(柏原千惠子)/悔恨を鎮めるもの(米口實)/浮遊する「今」/三つの「私」

第3評論集
「未来」選者
平成27年11月13日発行
四六判上製カバー装308頁
定価:本体2700円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
洞口千恵歌集
『緑の記憶』


 杜貴、君のこころにありや青葉山の
 われと過ぐしし緑の記憶

私が出会ったすべての馬たちへ、
そして最愛の馬・杜貴へ

いままでに全編が馬の歌という歌集はあったであろうか。なかったような気がする。というよりなかったといっていい。
(三井ゆき・跋より)

・放たれて跳ねつつ駈くるを見てあれば
 馬とは風を恋ふる生きもの
・杜貴には杜貴の匂ひのありてそを嗅げば
 胸にほかりと浮く春の雲
・透明になりゆく雪の蹄跡は
 ひかりを容れてわれにほほゑむ

第1歌集
「短歌人」同人
2015年10月21日発行
四六判並製カバー装144頁
定価:本体1900円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
藤田初枝歌集
『髪を切りにゆく』


 鳴いたつて相手に伝はるものぢやなし
 難しからんかなかなの恋

感覚の冴えがあり、その力量には感服させられる。鳴けばすぐに伝わるのだったら恋も楽しいだろうに、人間界の「孤悲」も孤独でせつない。いくら〈かなかな〉と詠嘆を重ねてみても重い扉は開かない。
(大森益雄・跋より)

・恋すてふ浮き名も立ててみたかりき
 「孤悲」の孤独を知らざりし頃
・「見た目でしよ」少女鋭く言ひ放ち
 校舎の影がまた伸びてゆく
・ひとづまと気付かないまま旧姓の
 わたしとメールを交はす君はも

第1歌集
「短歌人」同人
2015年9月16日発行
四六判並製カバー装200頁
定価:本体2000円[税別]
装画/藤田浩暁
装幀/真田幸治
 

 
鈴木竹志歌集
『游渉』


教員としての日日、
傍らには言葉があった。
読む喜び・詠む悦び、
その率直なる感慨。

どこまでも自然体に
思索しつつも
自らを愉しむ。


・買はぬまま本屋出づるはわが主義に
 あらずと今日も文庫本買ふ
・携帯の画面に見入る若者に
 ぼんやり空を見ること勧めむ
・幼き日覚えし星の名の一つ
 アルデバランはいかなる星か

第2歌集
コスモス叢書第1085篇
2015年9月11日発行
四六判上製カバー装198頁
定価:本体2500円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
白川ユウコ歌集
『乙女ノ本懐』


屈折しているように見えて、ストレート。やわらかな心を歌の言葉で鎧うように見えて、みずからの言葉に傷ついてもいる。すこし強がりな〈本懐〉を冷静な自己観察で晒しながら、自分とこの世が斬り合う姿を愉しんでいるようだ。いい子にはならない覚悟は、弾力のある見方を彼女に与えた。言葉が走り抜けたあとに、残された〈乙女〉の心の裡が露わになる。
(大松達知)

・二杯目のカシスオレンジ
 さびしいと言えばさびしくなくなりますか
・ひらいてはとじる花韮
 すこしだけこころを見せて薬をもらう
・ありがとーございました!と叫んでる
 マニュアル通り心を込めて

第2歌集
コスモス叢書第1084篇
2015年8月30日発行
四六判上製カバー装174頁
定価:本体2300円[税別]
装幀/真田幸治
原案/著者
 

 
斎藤寛歌集
『アルゴン』


 斎藤寛とはナニモノだと、この歌集を手にする人はみなおもふ。そして読み終はつた後でもふたたび斯くおもふであらう。しかるに、一種名状しがたいアナーキーで無国籍風な、ゴワゴワした日本語の手触りにふれて、ふと振り返り見れば、そこにまぎれなく現代を生きる中年男が妙に馴れ馴れしい微笑を浮かべて突つ立つてゐて、思はずはつとするであらう。
(小池 光)

・一枚の硝子を背負ふ人の来て
 一人に負はるる硝子が行けり
・後ろより〈戦争やりてえ!〉といふこゑす
 戦艦三笠映写室にて
・イクラ丼改め原罪ドンブリと名付けむか
 秋の彼岸の暮れに

第1歌集
「短歌人」同人
2015年8月18日発行
四六判上製カバー装214頁
定価:本体2500円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
小坂紀子歌集
『定禅寺通り』


歌がなければ意識されることもなく通り過ぎていったかも知れない日常のさまざまなシーンや感情が、この一冊から静かに立ち上がってくる。歌に刻まれたかけがえのない生の時間を、ともに享受し、味わっていきたい。
(内藤 明・跋より)

・全盛期すぎたる家族という器
 欠けはじめゆく婚のひとつに
・元気かと問われ元気と答えいる
 花びらほどの嘘かさねきぬ
・故郷の扉はいつも開けおくと
 子への伝言われに言う夫

第1歌集
音叢書
2015年6月28日発行
四六判上製カバー装232頁
定価:本体2400円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
柘植周子歌集
『月の陰翳』


切れ味のよい韻律と定型に立ち向かう姿勢からたちのぼる浪漫が深く身に沁む。凜とした心ばえとはかなさが相反しないことを私は彼女の作品を通して知った。「短歌人」に入会して初心者の欄からの再出発。そこに至る逡巡や決意を想像すると畏敬の念さえおぼえる行動者の辛抱の何年間かを私は目にしてきた。そうした行為と深く連動している作品群。
(三井ゆき)

・ほのかなる香りまとへるゆりの花
 おのれ視るべく薄暮をひらく
・明日へとうつろふわれやなかぞらに
 ものおもはする月の陰翳
・をりふしにこの世のひかり覗きては
 枝の蓑虫いつまでこの世

第4歌集
「短歌人」「梁」同人
2015年5月25日発行
四六判上製カバー装230頁
定価:本体2500円[税別]
装幀/真田幸治
 

 
森典子歌集
『ビューティフルストレス』


朝食のサンドウィッチに挟みたる
卵とハムとビューティフルストレス


率直な感覚で詠われている。特に奇を衒ってはいない。というより、作者は自分の感じたがままに詠っている。そして、その感じたままが、時として個性的なストレスを感じさせる表現になっている。
(藤原龍一郎・解説より)

・つま先を少し持ち上げ履いていた
 観劇の靴 熱帯びたまま
・今すぐにBarbieの人格解放して
 スキカッテニサセルそれがすべてだ
・仕方なく固まりましたという顔の
 ゼリーに匙を突き刺す我ら

第1歌集
「短歌人」同人
2015年5月19日発行
四六判上製カバー装156頁
定価:本体2300円[税別]
装幀/真田幸治

 

 
朝生風子歌集
『なう猫よ』


なう猫よ
夕べのことから今朝までの
一部始終は忘れてほしい


猫三匹と犬一匹にまもられての暮らし。
気ままな猫に寄り添い、
時に振り回されながら、
父と母を思い出す。
寂寥を胸に更なる一歩。

・わたくしは靴をぬぎ猫は靴をぬがず
 猫が日に日にりつぱにみゆる
・雨の日に窓みがかむと決めたるは
 母亡くなりし後のことなり
・あまりにもながき余生と思ひつつ
 壺のインクの減りに気づきぬ

第1歌集
「短歌人」同人
2015年4月27日発行
四六判並製カバー装164頁
定価:本体2000円[税別]
装画/國吉カオリ
装幀/真田幸治
 

 
山下冨士穂歌集
『覚書』


浮遊する感覚と
自在なる韻律、
たゆまぬ好奇心、
時間を往還して、
日常を独自の視点で
掬い取る熟練の作品集。

・積つたばかりのゆきのにほひがかすかにした
 寡黙なひとの傍らにゐて
・白色の絵具ばかりを買ひ足してゐた頃のこと
 雲を見ながら
・差出人も宛名も山下冨士穂にして
 長い手紙を書き始めたり

第2歌集
「短歌人」同人
2015年3月29日発行
A5判変型並製カバー装216頁
定価:本体2400円[税別]
装画/中村優子
装幀/真田幸治